#5「南ジャンプスよ、パイオニアとなれ」
埼玉県川口市を拠点とするチームに上記の1〜4を具現化しているという噂を聞きつけ、休日にこっそり指導を覗いてみた。コーチは8人ほどいただろうか。それぞれが役割をもち子どもに接している。驚く程いきいきしているコーチ陣。教師は子の鑑ともいうが、いきいきとしたコーチの前にいる子どもたちもまた、キラキラと輝いてバスケに打ち込んでいる。見学する保護者も多い。中には一緒にバスケをする保護者もいる。なんと微笑ましいことか。子どもたちは多くの大人の目に囲まれて「安心」しているようだ。ふと「マズローの欲求5段階説」が頭に浮かんだ。最上位の「自己実現」のためにはそれを支える「安全欲求」がある。安心してバスケに打ち込める環境があるからこそ、自己実現に向かえるのだ。また、決して楽な練習をしているようにも見えない。しばらく見学するとあることに気がついた。30分程度で時間を区切り、その練習の中で目的や目標を共通理解して取り組んでいるようだ。内容は濃い。しかし、子どもたちは楽しそう。そう、彼らは高いモチベーションを持って、個、そしてチームのゴールを理解した上で練習に取り組んでいるのだ。コーチ陣の声がけも的確である。子どもたちの足を止めることもない。「COACHING ON THE RUN」という理念を最近学んだが、その理念がこの体育館に具現化されていた。
こっそり見ているつもりだったが、気がつくと、身を乗り出して覗き込んでいた。「うちのチームに興味でも?」とあるコーチが声をかけてきた。年は50代だろうか。キャップを外して私に挨拶してくれた。白髪の短髪がよく似合う。握手をすると、その力強さに驚いた。よく見るとふくらはぎの筋肉の張りもものすごい。筋肉だけで言えば現役のプレーヤーといっても過言ではない。
チーム名は「南ジャンプス」というらしい。かつては市内で最弱のチームであったが、「プレイヤーセンタード(選手中心)」の理念と「OKR(目的と結果を可視化した、系統的な指導)」をコーチ陣のみならず保護者も共通理解することで県内でも結果を残せるようになったという。男女ともに「川口カップ」という県内最大のバスケの大会への出場を果たし、男子は県外遠征の招待大会で優勝もしたという。
代表は有本有一氏、中体連や高体連等のバックボーンや自身のバスケ経験もないが、指導者B級ライセンスまで取得し、令和二年初頭からB1のプロバスケチーム「信州プレイブフォーリアーズ」の育成世代の指導責任者として活躍しているという。
「バックボーンや経験がないからこそ、純粋にバスケに向き合うことで、バスケの魅力や特性、理論を一から積み上げることができた。世界のトップ指導者であるトーステン・ロイブル氏(現3×3男子日本代表ヘッドコーチ)からバスケの指導を学べたことも大きい。今、私はホームコートを中心として地域が一体となってチームを支える構想を描いている。」そう語る有本氏は、これ程のすばらしチームを築いた上で、さらに先を見据えているようだ。その目には炎のように燃え上がる意志がみなぎっていた。
このようなチームがパイオニアとなることで日本のバスケ界は明るくなることを確信した。
#6 EPILOGUE